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東京高等裁判所 昭和57年(行コ)47号 判決

東京都豊島区雑司が谷一丁目五〇番六号

控訴人

赤羽淳一郎

右訴訟代理人弁護士

岩井重一

土屋耕太郎

同都同区西池袋三丁目三三番二二号

被控訴人

豊島税務署長

小林實

右指定代理人

江藤正也

岩谷久明

有賀喜政

松元弘文

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人が昭和五二年九月三〇日付けでした、控訴人の昭和四九年分贈与税の決定処分及び控訴人の昭和五〇年分所得税の更正処分をいずれも取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり付加するほか、原判決の事実摘示と同じであるから、これを引用する。

一  (当審における陳述)

1  控訴人

亡修司からの本件土地の受贈者は道子であって、控訴人ではない。したがって、右受贈者が控訴人であることを前提とする本件決定(昭和四九年分贈与税決定処分)及び本件更正(昭和五〇年分所得税更正処分)はいずれも当然に違法であるといわなければならない。そこで、控訴人は、本件決定及び更正の違法事由として右の点を主張することとし、原判決摘示の右違法事由に関する控訴人の従前の主張、及び本件土地の受贈者が道子である旨の右主張に抵触する認否をいずれも撤回する。なお、この撤回のうちに、自白の撤回に該当するとの評価を免れない点があるとするならば、その自白は真実に反し、かつ、錯誤に基づくものである。

2  被控訴人

控訴人は、原審において、本件土地が亡修司から控訴人に贈与された旨の被控訴人の主張に対し、控訴人が亡修司から同土地の所有権を取得したことを自白した。しかるに、当審に至って、右土地の受贈者が道子であることを主張することにより、右自白を撤回したものと解されるが、被控訴人はその撤回に異議がある。

二  (当審における立証)

1  控訴人

(一)  当審証人赤羽敬司の証言を援用。

(二)  乙第二三号証の成立、及び同第二四ないし第二八号証の原本の存在と成立をいずれも認める。

2  被控訴人

乙第二三ないし第二八号証を提出。

理由

引用にかかる原判決の事実摘示中、本件決定及び本件更正の経過に関する請求原因第一、第二項の事実は当事者間に争いがない。

しかるところ、被控訴人は、控訴人の当審における主張の変更は「控訴人が亡修司から本件土地の所有権を取得した」旨の原審における自白の撤回に該当するとして、これについての異議を述べるものであるが、「控訴人が亡修司から本件土地の所有権を取得した」旨の陳述は一定の法律要件に基づき発生すべき法律効果にかかわる法律上の陳述に該当し、裁判上の自白の対象たる事実上の陳述にはあたらないというべきであるから、その点についての「自白」(いわゆる権利自白)は当事者及び裁判所を拘束せず、控訴人においてこれを撤回することも当然に許されるのが相当である。被控訴人の前記異議の申立はその前提に欠け、失当である。

しかしながら、この点はさておき、当裁判所も、本件決定及び本件更正に違法はない、と判断するものであって、その理由は、当審における控訴人の主張の変更並びに新たな立証に基づき、以下のように加除訂正するほか、原判決理由第二ないし第五項の説示(原判決一六丁表四行目から二九丁表六行目まで)と同じであるから、これを引用する。

1  原判決一六丁表四行目の「また、」から一〇行目の「検討するに、」までを「そこで、昭年五〇年分所得税の申告に至るまでの事実経過について検討するに、」と改め、同裏一行目の「第一二号証、」の次に「第二六、第二七号証、」を加える。

2  同一九丁裏五行目の「争いがない。」の次に「しかし、道子は、この間の折衝、右契約書等の書面の作成及び登記手続等に全く関与せず、本件土地所有権を取得した旨の認識はもとより、同土地につき自己所有名義の登記が経由されたことの認識さえも有していなかった。」を加える。

3  同二一丁裏四行目の「売り渡した。」の次に「なお、本件回復登記手続につき、控訴人が道子に対してその承諾を求めた事実はなく、道子は本件土地(二)の売却や、売却代金の受領及びその管理運用等にも全く関与していない。」を加える。

4  同二二丁表四行目から二四丁裏一行目までを次のとおり改める。

「以上認定の事実によれば、昭和四九年八月九日付けの前示契約書(甲第六号証)の記載及び道子登記の経由等にかかわらず、本件土地は、実質的には亡修司から控訴人に対して譲渡され、控訴人がその所有権を取得したものであることが明らかというべきである。当審証人赤羽敬司の証言中には、控訴人に対する右譲渡を否定する趣旨の部分もあるが、それは亡修司の意思を忖度した供述にすぎず、右の認定判断を左右するものではない。」5 同二四丁裏二行目の「次に、」から二五丁裏一行目の「検討するに、」までを次のとおり改める。

「ところで、控訴人が被控訴人の係官に対し、亡修司から控訴人への本件土地の譲渡は慰籍料の支払に代わるものである旨の申述をしたことは前記認定のとおりである。そこで、前項認定の事実関係に基づき、この点を検討するに、」

6  同二七丁裏四行目から六行目までを削除し、七行目の「したがって、本件決定が本件土地の取得」を「そうすると、控訴人は対価を支払わないで本件土地所有権を取得したというべきであるから、本件決定がこれ」と改める。

以上によれば、本件決定及び本件更正に控訴人主張の違法はないから、控訴人の本訴請求をいずれも棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。

よって、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鰍澤健三 裁判官 尾方滋 裁判官枇杷田泰助は転官のため署名押印することができない。裁判長裁判官 鰍澤健三)

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